さて、いよいよ選挙が近付いてきました。
本日は、私が市長選への立候補を考えてから今もずっと、注力したい分野と定めている「高齢者、特に認知症の対策」についてお伝えしたいと思います。
この内容は、「くらし・あんしん・たのしい」のうち、くらしとあんしんに両方につながるものです。今日も長文になりますが、ぜひお付き合いいただければと思います。
まず、少しだけ「今の日本における認知症のこと」
厚生労働省が2015年1月7日に発表した情報によると、2025年には高齢者の約4人に1人、約700万人が認知症になるとの予測がなされています。これは、久山町研究の認知症に関する疫病調査から導き出されたもので、老年期認知症の研究として非常に注目されたものです。
(参考までに、その調査発表資料のリンクをご紹介しますね)
参考
・ 健康・医療戦略推進本部 わが国における高齢者認知症の実態と対策:久山町研究
九州大学大学院医学研究院 環境医学分野 清原 裕(平成26年10月29日)
いずれも専門用語が多用されているので、読み解くのには骨が折れます。が、もし興味がある方はぜひご覧下さい。
(こういう研究論文を、簡単な言葉で解説して、さらに自分たちの生活の中でどういうことを考えるべきか、などを話し合える場があるといいですね! それも「大人が通える藤沢学校」でやりましょう!)
話が逸れてしまいましたね。元に戻します。
さて、この情報が出たのは2012年の時点で、その頃は全国の認知症患者は約462万人とされていました。そこから考えると、2025年にはその数が1.5倍ほどになるということです。
超高齢社会に突入するうえで、高齢者の中でも特に認知症の方への対応が急務である、という理由はここにあるわけです。
では、どのような対策が必要なのでしょうか?
同じく厚生労働省がまとめた「新オレンジプラン」では、「認知症の人の意志が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で、自分らしく暮らし続けることができる社会を目指す」と提言されており、そのために7つの柱を示しています。
- 認知症への理解を深めるための普及・啓発の推進
- 認知症の容態に応じた適時・適切な医療・介護等の提供
- 若年性認知症施策の強化
- 認知症の人の介護者への支援
- 認知症の人を含む高齢者にやさしい地域づくりの推進
- 認知症の予防法、診断法、治療法、リハビリテーションモデル、介護モデル等の研究開発及びその成果の普及の推進
- 認知症の人やその家族の視点の重視
出典:厚生労働省「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)~認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて~の概要」
この取組みを推進していくことは、今後、超高齢社会となる日本のスタンダードになると考えますし、藤沢市は他に先んじて、この全国モデルになるようなことを実践していきたいと考えます。
そのための具体策として、私の「くらし」の政策は設計しています。
この話の最後の方で、そのタネあかしをしたいと思います。が、その前に少し現実的なところを見ていきたいと思います。
この先で挙げる話は、現場の方に言わせると「まだまだもっと大変で根深い問題がある!」と言われるかもしれません。私も、より核心となるところを理解し切って書けていないのではないか、と思う部分もあります。
それでもあえて私の政策提案の中でも「中心となるもの」とし、訴えをしているのは、認知症の方への対応についてベストな策を考え出すまでに、残された時間があまりないと感じているからです。
ただ、私は、対策を立てることについて、遅きに失する、ということはないと考えています。今後はより大々的に現場の声を聞いたり、解決策を一緒に模索していけると思います。そのためのたたき台として、私の意見を述べさせていただければと思います。
増える認知症患者に対して、地域でできそうなこと
さて、これまでは介護の職に携わる方や医療の現場の方、ご家族が主に認知症の方に接していらっしゃったと思うのですが、これからはそれ以外の方もこの病気について深く理解をする必要があると思います。
そこで、認知症について、私も活動をお手伝いしていた「認知症サポーター養成講座」の教材から引用したいと思います。
認知症とは?
脳は、私たちのほとんどあらゆる活動をコントロールしている司令塔です。それがうまく働かなければ、精神活動も身体活動もスムーズに運ばなくなります。
認知症とは、いろいろな原因で脳の細胞が死んでしまったり、働きが悪くなったためにさまざまな障害が起こり、生活するうえで支障が出ている状態(およそ6ヵ月以上継続)を指します。
認知症を引き起こす病気のうち、もっとも多いのは、脳の神経細胞がゆっくりと死んでいく「変性疾患」と呼ばれる病気です。アルツハイマー病、前頭・側頭型認知症、レビー小体病などがこの「変性疾患」にあたります。
続いて多いのが、脳梗塞、脳出血、脳動脈硬化などのために、神経の細胞に栄養や酸素が行き渡らなくなり、その結果その部分の神経細胞が死んだり、神経のネットワークが壊れてしまう脳血管性認知症です。
進行の早さや症状については、個人の内的要因と外的要因によって異なるので、一概には言うことができません。また、ドラマやドキュメンタリーなどで目にすると「大変な病気だ」という印象だけを強く持つかもしれません。しかし、初期の認知症であったり、進行を遅らせるために本人が努力したり周囲がサポートすることによって、ある程度までは日常の生活を続けることは可能です。
そのため、認知症は「早期・初期での発見はもとより、予防のための取組みが必要」とされるわけです。
私の政策でいうところの、「慢性疾患・生活習慣病予防のための運動の実践」の具体的行動案である「コグニサイズ健康運動の普及」は、この狙いがあってのことです。
特別養護老人ホームをどう活用するか
先に述べたような働きかけで、認知症の進行を遅らせる取組みを続けていくことと並行して考えなくてはならないのが、「病状が進んだ場合のこと」です。
特に、ご家族の介護にも限界があったり、独居で身寄りが近くにいなかったり、経済的に介護が難しい、老老介護や認認介護となっている、という場合、認知症の方自身もご家族も、安全に安心して生活を続けていくことは極めて難しくなります。
そこで、「特別養護老人ホームへの入所」を希望される方が出てくるわけです。
ここで、特別養護老人ホームとはどんな目的で運営されているのか、確認しておきましょう。
これは、老人保健法の範囲で、自宅での生活が困難である人が入所する施設であり、介護を中心としたサービスが提供されます。入所期限がないこともあり、終の住処として検討される方も多いようです。
※ ちなみに、2015年(平成27年)4月以降に新規申し込みをする場合は、要介護3以上の認定が必要となります。寝たきりなど介護度が重い、経済的に家での生活が難しい、という人から優先して受け入れがなされるように配慮される傾向にあります。
藤沢市には現在12カ所の施設があり、950名を受け入れられる特別養護老人ホーム※1があります。
では、それが十分であるか、というと、そうでもないようです(数字の上では、です)。現在、入所希望者数は約3,000名で、市内に在住する方はこのうち約1,200名となっています。残念ながら、足りていない、ということになるようです。
※1 出典:藤沢市介護保険課「特別養護老人ホーム申込者の推移(2015年10月1日現在)」市内特別養護老人ホーム 入所待機者数
「では、施設を増やせばいいじゃないか」という風に考える向きもあるかもしれません。
が、ことはそう簡単ではありません。いま、全国的にニュースなどでも取り上げられているので広く知られていることですが、介護職、特にケアスタッフの人材不足はいよいよ深刻化しており、現場では「ベッドは空いているけれど、受け入れる体制がない」というケースも散見されます。
この原因はひとえに人材不足が挙げられます。
「採用がしづらい(人手が不足している)」「比較的勤続年数が少ない人ほど離職してしまう傾向がある」という施設運営者側の意見を参考に、それをどう解決していくか、運営主体の垣根を超えて考えていかなくてはならないことです。
また、並行して、離職者がどんな理由で現場を離れていくのかを調査し理解することも、この問題を解決するためには不可欠です。
特に、「民間運営の小規模事業所で勤続年数が少ない非正規雇用のスタッフ」は離職率が高くなる傾向があるとのデータ※2があるので、「働き続けることのできる職場として介護の場を選んでもらう」ための努力を、同じ業界にいるすべての人の知恵をもって、作っていかなければならないと考えます。
※2 参考:公益財団法人介護労働安定センター「平成26年度 介護労働実態調査結果について」
ちなみに、平成26年度の介護労働実態調査によると、「介護労働者の就業実態と就業意識調査」の中で「労働条件等の不満」についての意見として、次のような意見が挙っていました。
人手が足りない | 48.3%(45.0%) |
仕事内容のわりに賃金が低い | 42.3%(43.6%) |
有給休暇が取りにくい | 34.9%(34.5%) |
注意:( )内は前年度数値。
出典:平成26年度「介護労働実態調査」の結果
行政としてできる待遇改善の方法としては、就労者支援として、「公共交通機関の割引特典を設ける」「市の運営する施設の利用について、優遇措置がある」などの目先の対策と、「運営側へ独自の加算点数を付け、給与に反映してもらえるようにする」といった施策があるかと思います。
また、責任ある仕事に誇りを持ってもらえるように、奨励制度があってもいいと思います。
いずれにしても、今後の高齢者、特に認知症患者の生活支援のことを考えるのならば、まず「その職場で働く人たちに、長く活躍してもらえる」ように努力をすることが、まずは急務になると考えます。
ハコモノを作る前に、まずはそのハコモノを活かすことができる体制を作ることを優先するべきであり、そのためにも、現場で働く人たちが誇りを持って日々仕事ができる環境をつくることが重要で、さらにそれが新たに働く人を増やすことにもつながる、と私は考えます。
特別養護老人ホーム、しかないの?
次に、入所希望者の“希望”についても、実態を正しく理解する必要があると考えます。
2011年の資料で少し古いのですが、気になる話がありました。これは、「平成 23 年度 老人保健健康増進等事業 特別養護老人ホームにおける待機者の実態に関する調査研究事業 ~待機者のニーズと入所決定のあり方等に関する研究~」と題されたものなのですが、この中に「施設入所検討時に特養以外の施設を検討したか」との設問がありました。ちょっとご紹介したいと思います。
特養以外は検討していない | 38.7% |
介護老人保健施設 | 30.6% |
グループホーム | 19.7% |
有料老人ホーム | 13.6% |
病院(介護療養病床を含む) | 11.2% |
ケア付き住宅(高齢者専用賃貸住宅など) | 7.0% |
特別養護老人ホームだけを検討している | 63.8% |
特養以外の施設(有料老人ホーム、高齢者専用賃貸住宅等)も候補として考えられる | 21.1% |
その他 | 5.4% |
以上の結果から考えられるのが、「認知症のほか、高齢になって日常生活に介護が必要になった場合は『特別養護老人ホームに行く』という風に考える傾向が強い」ということ。一見、「そのくらい介護の必要がある人が多いのか」とも思えるのですが、果たしてそうでしょうか?
これまでに話を聞いてきた中では、「費用が安く、いつでも面倒をみてもらえるなら特別養護老人ホームかな。でも、すぐに入所できるわけでもないらしいから、いまのうちに申し込んでおこう」という向きの話もよく聞くものです。しかし、それが本当に「自分が歩みたいあり方」なのでしょうか?
高齢者であっても、介護が必要であっても、「自分の過ごしたい場所で、自分らしく生きることができること」こそ、充実した人生のあり方ではないでしょうか? そう考えるなら、やっぱり特別養護老人ホーム以外の選択肢を、誰もが持てるようになった方がいいはずです。
そこで、最近注目したいのが「介護老人保健施設」の存在です。
介護老人保健施設に注目するのはなぜか?
まず、この話をするにあたって、「介護老人保健施設」がどんなものかに触れておきたいと思います。
よく、特別養護老人ホームと一緒に話題となるので、どこが違うのかイマイチよく分からないという話を耳にするのですが、だいぶ趣が違います。
介護老人保健施設は、「自宅での日常に戻ること」を目的とした施設です。
要介護認定を受けた方で、入院治療の必要がない要介護度1~5の方のうち、リハビリを必要とされた方に、医師による指導の元、理学療法士などが個々人にあったプログラムで生活のリズムを取り戻すように促し、数ヶ月後の退所を目指す、というのがコンセプトとなっています。
病院の機能を持った介護施設という風に考えていただければ良いでしょう。
(現場では、「老健施設」と略称で呼ばれることが多いです)
現在、政府の方針として「病院から施設へ、施設から在宅へ」というテーマが掲げられていることからも分かる通り、認知症の患者さんであっても、地域の中で「自分らしく暮らし続けられる」ことが求められているわけですし、実際にそうした“シゲキ”があることで、認知症の進行を緩やかにしたり遅らせることができるもの。
そのためにも、もし新たな施設が必要なのであれば、「老健施設の誘致」も考えるべきでしょう。そういう理由で、私の政策では、「特別養護老人ホームの受け入れ増と新施設誘致のためのトップセールスを行います」としているわけです。
もちろん、実際の利用者のニーズは考えなければなりません。でも、私の知る中では、やはり高齢の方にとって、自分が暮らしてきた家は特別な空間であり、「ここに住み続けたい」と考えている方が多いように感じます。
だから私は、「さいごまで安心して暮らせるまち・藤沢」を、キャッチコピーにし、必ず実現させたいという想いを込めたのです。
暮らしやすい家、安心して暮らせるまち
ただ、「ここに住み続けたい」と考えていたとしても、なかなか難しいという現実はあるでしょう。
例えば、
- 若かった頃に建てた家なので、階段の傾斜が急だから済み続けることが難しい
- 子供も独立して、広い家の手入れができない
- 外出することが難しい(自宅が坂の上などにある)
といったケースなら、「暮らしやすい家」にリフォームしたり、減築して管理をしやすくする、という方策が考えられます。そうした場合のサポートを行い、その分の費用をゆくゆくは市に土地を譲渡するなどによって賄う手段も考え得ると思います。
特に、藤沢市では南側のエリアの住宅密集地域で、災害時の避難場所が足りないのではないか? という別な問題があります。例えば、譲渡された土地をそうした目的で活用すれば、街全体の安心にもつながります。
さらに、街づくりの観点で言うと、「キケンな段差」を整備したり、コンクリートの陥没などを補修することはもちろん、「生活していると自然と運動ができるような仕掛け」を施すことも「高齢化社会のインフラ整備のあり方」として考えたいものです。これは、国立長寿の鳥羽先生※3が提唱していた「バリアアリー」という考え方です。
※3 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター 理事長 鳥羽研二先生
転倒のリスクなどを減らすことも大切ですが、「日常の中に『気をつけなければならないこと』を配することで、意識的に行動することが脳の働きを活性化させる」というわけです。
「街全体のインフラ」と「健康寿命の延伸、高齢者のくらしのこと」は、これまであまり一緒に語られることがなかったかと思いますが、こうした今まで分断して考えられていたことを包括的に考えて対策を立てることも、「藤沢モデル」とし、その実践した姿を、全国のモデルとして示していきたいことです。
改めて、田中しげのりの「認知症をはじめとした高齢者の生活に対する施策」
そろそろ記事が長くなってきたので、まとめてみたいと思います。
- まずはじめに、健康寿命延伸のため、慢性疾患や生活習慣病の予防運動を実践する。これによって、病気へのリスクを行政が旗ふり役となって地域のみんなで減らしていく
- 加えて、患者と専門職のタテ糸と専門職同士のヨコ糸をしっかりと編み、医薬連携で地域包括ケア体制ができるように地固めを行う
- さらに並行して、現在認知症などで特別養護老人ホームへの入所を希望する方たちへの対応を行いつつ、「そのほかの選択肢」を選べるように、老健施設などについて、まずは知ってもらうよう啓蒙を行う
- そして、今後、そうしたサポートを希望される方の「本当にありたい生き方」について、話を聞きながら「みんなが利用したい施設」が必要であれば、それをトップセールスで誘致していく
こうした一連の取組みがあってこそ、「さいごまであんしんして暮らせるまち・藤沢」ができると考えています。ぜひ、そうした藤沢を、みんなで一緒になって、創っていきましょう!