先日の“地域がつながることが大切。それは医療体制も同じこと”に続き、地味なお話かもしれませんが、大切なことなのでお伝えしたいと思います。生活のこと、日々のことは地味なものです。でも、確かにそれを日々続ける人にとっては大切なこと。
だからこそ、政治のあり方は滋味であるべきだと私は考えています。

さて、「くらし・あんしん・たのしい」の中でも「くらし」についてのお話です。
ここでは、「医薬連携による糖尿病性腎症重症化予防対策事業を実施」を掲げ、さらに「健康寿命延伸に向け、慢性疾患予防・生活習慣病対策のための運動を実践」について考えているわけですが、これはどういう意味で、どんな目的を持っているか、解説していきたいと思います。

どうして、慢性疾患予防・生活習慣病対策が必要と考えているか?

まず「慢性疾患や生活習慣病」とはどのような病気なのか? を、少しだけお伝えしたいと思います。

「慢性疾患」とは、厚生労働省の「慢性疾患対策の更なる充実に向けた検討会」によると、「がんや循環器病などの生活習慣病をはじめとした病」とされています。私は中でも「生活習慣病」、特に「糖尿病性腎症」という病気への対策が必要だと考えています。

また、耳慣れない言葉が出てきましたね。「糖尿病性腎症」とはなにか? これは、一般社団法人全国腎臓病協議会から引用すると、以下の通りです。

糖尿病の合併症です。糖尿病性腎症の場合、急に尿が出なくなるのではなく、段階を経て病気が進行します。このため、できるだけ早期に発見し、適切な治療をすることが重要です。現在は、糖尿病性腎症が原因で透析を受けることになった人が、全透析患者のうち44.1%(2012年末現在)と最も多い割合を占めています。

さらに、この原因については、以下のように記されています。

糖尿病で血糖値の高い状態が長期間続くことで、全身の動脈硬化が進行し始め、毛細血管の塊である腎臓の糸球体でも細かな血管が壊れ、網の目が破れたり詰まったりして老廃物をろ過することができなくなるとされていますが、根本的な原因ははっきりしません。

症状は段階によって異なるとされていますが、治療には食事管理や運動療法による厳しい血糖コントロールや、糖尿病薬の服薬、インスリン注射も行われます。
詳しくは、「一般社団法人全国腎臓病協議会 腎臓病について」をご覧いただければと思います。

さて、ここでポイントとなるのが「食事管理や運動療法」というものです。
実際に患者さんにお話を聞いたり、医療従事者にヒアリングをすると、「これまでの生活」からかなりの制限を受けること、が想像されました。また、重症化にともない透析療養が必要になると、生活の制限はもちろん、医療費の負担も大きくなります。

他方、糖尿病患者の4割は自覚症状がなく過ごすとされています。
そのまま見過ごしてしまえば、腎症、網膜症などを引き起こす、カラダ全体に関わる病であること。それが、私が「糖尿病性腎症」にこだわる理由であり、服薬をする前に対策をするためにも「生活習慣」に積極的に行政として関わっていきたいと考える理由です。

理由は他にもあります。
「糖尿病性腎症の各病期の医療費と病期繊維患者数」という株式会社データホライゾンによる資料によると、その費用は、年間約500万円/1人ほどとのデータが出ています。このことから、医療費という観点からも、見過ごせない大きな課題だと認識しています。

(※ 広島県呉市が平成22年度に広島大学大学院医歯薬保険額研究員成人看護開発学 森山美知子教授に委託して実施した糖尿病重症化予防プログラムの結果として)

健やかに、「自分のありたい生活を送ること」が難しくなることは、日々の暮らしや生きることの質を下げることに繋がりかねないものです。

それを避けるためにも、今、まだ病気にかかっていなければ、そうならない状況を保つことが大切ですし、もしこの病気にかかったとしても、少しでも状況を悪化させないようにすることは、行政だけでなく、医師や薬剤師などの医療に携わる方々とも手を取り合って取り組まなければならないことなのです。

私は、このためにも「医薬連携による、慢性疾患・生活習慣病への対策」に積極的に取り組みたいと訴えているわけです。

生活習慣を変えることは、実際とっても難しい

では、具体的にどう取り組むのか、を考えていきたいと思います。
ここでは、便宜的に藤沢市に住む人たちを次のように区分けしたいと思います。

  1. 糖尿病をはじめとした慢性疾患の疑いがない人
  2. 慢性疾患のリスクが高い、または早く対策が必要な状態にある人
  3. 顕性腎症期〜腎不全などの症状が現れてきた人
  4. 透析が必要となった人

糖尿病をはじめとした慢性疾患の疑いがほとんどない
=健康増進への取り組み

まず、「病気の心配がない、またはリスクが少ない」という段階の方には、バランスの良い食事や適度な運動などを生活の中に取り入れることで、今の健康を保つよう、意識付けになる情報を積極的に発信するほか、定期的な地域の「生活習慣病教室」への参加、または、その様子を後からでも見られるような仕組をつくります。

例えば、「藤沢健康ナビ」というアプリを配布し、通勤の間にスマートフォンで情報収集ができたり、スキマ時間に読めるコンテンツを充実させるなどしても良いでしょう。

ダイエット日記機能を付けたり、食事の写真を撮影することで、「今日、何を食べたか」をログとして記録しておくだけでも、意識の改善に役立つかと思います。これは、民間のすでにある機能を使っても良いでしょう。

慢性疾患のリスクが高い、または早く対策が必要な状態
=食事や生活習慣のアドバイスを

「病気へのリスクが検診などで発覚した」となったら、もう少し行政として踏み込んだ取り組みをしていければ、と考えます。
特定健康診査のうち、「要注意」と判断された方、特定保健指導を受けた方に対して、まず、「食事や生活習慣のアドバイスを受けたいかどうか」との招待を出します。

これに「参加する」とした方を対象に、医薬(医師と薬剤師)が連携してサポートをする座組みを設け、2〜3カ月「食事指導や運動などを通して健康について考え、生活習慣を変える」というチャレンジを行ってもらいます。

ポイントは「医師と薬剤師が協力している」という点です。
医師は診断し、ここの患者に合った治療プランを立てること。そして、生活上の注意点などの指示を文書にして患者に渡します。一方、薬剤師はチャレンジを行う当事者と面談を行い、医師の指示を実践するためのサポーターとなります。さらに、この2者間が面談の結果を共有したり、そのほかチャレンジに取り組む様子などについて情報連携できるようにします。

地域に根ざす、薬剤師だからできること

では、何故、薬剤師が面談をしたり、食事のアドバイスをするのか? という点です。
これは、私も一緒に取り組みを行っていた松山市の事例ほか、様々に報道されていることなどを読み解き、実際にその取り組みを行っている会社の方から伺ったのですが、

「地域に密着した薬局の薬剤師なら、ご当地の生活習慣、例えば郷土料理をはじめとした味付けの傾向、何時頃に起きて、どのくらいの移動(=運動量)があって、ある時期にはお祭りでアルコールを飲む機会があって、ということが肌感覚として理解できるから、アドバイスも、その人の置かれた立場や、生活習慣の中での楽しみなどを考慮したものになる。だから、当事者も心を開いてくれるので人間関係を作りやすいし、結果として取り組みが成功しやすくなる」のだそうです。

確かに生活習慣は、“指導”されて「はい、そうですか」と直すことができるものではありません。
「分かっちゃいるけどやめられない」「分かっているけれど、それをやめてしまうくらいなら、多少健康への影響があってもやむなし」と思うことだってあります。

私だって、正直なところ、大好きなお菓子を「健康に良くないからやめなさい。チョコレートなんてもってのほか!!」と頭ごなしに言われたら、もう2度とアドバイスなんて聞けそうにありません。

今の生活の楽しみを続けること」と「健康への取組み」が乖離して考えられたら、それは絶対に続かない、というのは私自身、よく理解しています。きっと多くの方も同じように思われることでしょう。

人間関係ができてはじめて、生活習慣というプライベートなことに踏み込める

その話をしていると、前出の会社の方がこんなエピソードを教えてくれました。

「ある、ひとり暮らしの男性が食事アドバイスに参加したのですが、その方はあまり協力的ではなくて……。薬剤師との面談では、食事の内容はおろか、雑談もなかなか続かないほどでした。正直なところ、どうしてこのチャレンジに参加してみようと思ったのか、不思議なくらいで……。

でも、薬剤師が『とりあえず、なんでも良いから話を聞く』という姿勢でいたところ、数回目のある日、食事の写真を撮ってきてくれるようになったんです。それだけでも大きな変化だったのですが、凝り性なのか、100円均一でホワイトボードを買ってきて、写真に写っている料理の献立をきちんと書き添えてくれていました。

その変わり様には驚くばかりだったのですが、『何がきっかけになったのか?』と薬剤師に尋ねると、『私は特になにもしていなくて、ただ話を聞いていただけです』とのこと。でも、何かしら、男性と薬剤師の間で信頼関係というか、人間関係がちゃんと育っていて、『この人になら話してもいいかな』と思ってくれたのだろうと、大いに喜びました。

写真を見たところ、食事は一食で、あとはオヤツを食べていたようです。その内容について『この食べ方はとっても良いけれど、カロリーが足りないから、もう少しカロリーが取れるオヤツを足してみてください』と栄養指導をしたところ、『お菓子を食べてはいけない、と叱られると思って、今まで言えなかった』と、これまでなかなか協力してくれなかった理由を“白状”してくれたそうです。その後はプログラムもちゃんと受け、血糖値を下げることに成功し、食べることにももっと関心を持ってくれたそうです」。

このエピソードには、いくつかの気付きがあります。
中でも、男性の生活の中での楽しみである「オヤツ」を否定することなく、それならばと、別の何かで補完するようなアドバイスが行われたことは、素晴らしいものだと感じました。
その人のことを知り、理解し、否定しない」という姿勢を見れば、「この人の言うことなら聞いてみてもいいかも」と思い、生活習慣を変えるきっかけにもなるでしょう。

また、それまで根気づよく「話を聞く」という姿勢が、人間関係、信頼関係を芽吹かせるきっかけになったことは言うまでもありません。こうした関係性に裏打ちされていなければ、自分の生き方に直結する「食べること」の習慣、ひいては健康への取組みについて、態度を変えるようなことは絶対にできないでしょう。

改めて、田中しげのりが考える「糖尿病/生活習慣病」対策

こうした関係づくりを基にした「健康対策」には、自治体を核として、医師会・薬剤師会の連携が不可欠となります。

そのため、自治体は、保健所を中心に「チャレンジの対象となるような方を検診などで早期に発見すること」と、チャレンジの対象者になるべく取組みに参加してもらえるよう、直接・間接的に働きかけること。これらは当然のこととして、さらに、チャレンジをする当事者が勇気の一歩を踏み出せるようにするためにも、日ごろから地域の絆を紡ぐ仕組みを、行政としては作らなければならない。そう考えています。

何度でも言いますが、それがあって初めて、医師が、しっかりとその人の状況を知り、適切な医療を施すことができ、薬剤師が薬の服薬指導はもちろん、チャレンジに参加している人たちのサポーターとして生活習慣のアドバイスを行ったり、チャレンジを成功するまでの支援を行うことができるわけです。

また、異なる組織に所属する医師と薬剤師との間の連携を密にするための「ハブ」的要素も、行政だからできることだと考えています。

顕性腎症期〜腎不全の方や透析を始めた方への取組み

さて、先に記したような取組みを行っても、やっぱり病気を抱えてしまうこともあります。
それが原因となって、例えばそれまでの仕事を続けることが難しくなったり、生活への不安を抱かざるを得ない状況になったとしたら……。そうした人たちも、「さいごまで安心して暮らす」ために、どんなことができるのか……。
少し考えてみました。

先に挙げた生活習慣の改善を引き続き行っていくことももちろんですが、一方で、生活の基盤を持つための支援も大切です。

例えば、今までのスキルや知識、そしてやってみたいことに挑戦できたり、不安を解消して地域の一員として暮らしを続けてもらうために、「大人の藤沢学校」への参加のほか、セカンドキャリア支援を市として積極的に行っていきたいと考えます。

文字通り、市民が支える藤沢市だからこそ、「どうお金を使うのか」を考えよう

別の記事で詳しく記したいと思いますが、私たちの街・藤沢市の平成25年度の歳出内訳明細を、あるリサーチ会社にお願いして調べてもらったところ、歳入(1,243億円)に対して、削減が難しい経費やその他の経費を差し引いたところ、およそ111億円のお金が「将来に向けて投資可能な金額」と考えられることが分かりました。

さらに、歳入の内訳を見たところ、自主財源(市民または企業、観光収入)が69%、依存財源(国からの借金など)は31%程度と、比較的良好な財政状況にあると言えます。

しかし、残念ながらこのことに、「誇りを持てども、安心してはならない」という状況が訪れます。それというのも、単純な試算ではありましたが、2025年以降、藤沢市も高齢化による影響を受け、市の主たる歳入源のひとつである「個人市民税」の落ち込みが考えられ、2040年ごろには急激な歳入減が考えられるからです。

つまり、私たちはまだ余力がある今こそ、2025年までの間に「なるべく歳出を抑える努力」をし、「将来、個人市民税以外の歳入が見込める手段」を考え、「いつまでも安心して暮らせる街・藤沢」を創っていかなければならないのです。

それが、今、ここで生きる私たちが未来の藤沢に向けてできること。今しかできないことなのだと、考えます。

医薬連携の理由から税収の話に飛躍した、と思われますか?
私はそうは思いません。
なぜなら、生活習慣を見直し、将来的な医療費の削減を目指して、今、対策を行うことは、「私たちが使えるお金の使い道をより前向きなものにすることにつながる」と考えているからです。

この問題意識の持ち方と、今できることに目を向けること。それが田中しげのりの考え方であり、「藤沢モデル」として全国の地方都市に広まってほしいと願う、戦略の描き方です。

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健康運動コグニサイズ!※シェア時に表示される画像は、私が「健康寿命延伸」に向け、慢性疾患予防や生活習慣病の予防対策としてみんなで取り組んでいきたいと考えている体操をしている場面です。
(右の画像が全体像ですね)

この体操は、国立研究開発法人 国立長寿医療研究センターが作ったもので、認知症対策の一環として「身体の体操と頭の体操」を同時に行えるようなプログラムになっています。

詳しくは、明日以降にブログで紹介しますね!

私が考える、藤沢モデルの健康への取組み〜医薬連携、慢性疾患対策

政策eBook「田中しげのり、3つの提言」ダウンロード

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